第40回 自明性の基準

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自明性は先行技術を組み合わせると、それらの組合せから容易に想到できる、すなわち自明であるという拒絶の理由です。
KSR事件においても、4つの先行技術を組み合わせることにより自明であるとされました。
地裁ではTSM(teaching, suggestion, motivation)テストを使って自明であると判断しました。
(1)電子センサと調節可能なペダルを組み合わせ、(2)Rixon氏の発明はこの開発を根拠付けているが、これにはワイヤの摩耗の問題があり、③Smith氏の発明は、センサをペダルの固定した構造に配置したことで、摩耗の問題に対処しました。
米国特許5,010,782号(Asano)、米国特許5,460,061号(Redding)、米国特許5,241,936号(Byler)、米国特許5,063,511号(Smith)という4つの先行技術があり(たとえばAsanoは「位置調節可能なペダル機構」を開示し、Reddingは、「調節可能なペダル制御装置」を開示)、そのほかにもいくつかの先行技術が言及されていました。
たとえばRixon氏の発明は、米国特許5,819,593号は、電子制御可能なペダル機構を開示し、Rixonのペダル押下の際のワイヤの摩耗の問題に米国特許5,063,811 号(Smith氏)が対処していると判断されました。

オフィスアクションにおける自明性

“the present invention is obvious over Okuda et al. in view of Johnson under Sec. 103 of 35 USC”
米国のオフィスアクションでは、自明性による拒絶としてこのような文章が記載されます。
(本発明は、Johnsonの発明を考慮すると、奥田らの発明をもとに米国特許法103条により自明である。)
つまりここでは、奥田氏の発明を基礎とし、さらにJohnson氏の発明と組み合わせると本発明は自明であるとして拒絶しています。
たとえば本発明が「通話時間計測手段を備えた通話手段」であり、先行技術である奥田氏の発明が「通話手段」であり、Johnson氏の発明が「通話時間計測手段」であるときは、この2つの先行技術を組み合わせないと本発明を拒絶できず、組合せで拒絶しますが、このときに、審査官は、”over … in view of …”という表現をすることが多いです。

改正された103条

今回の米国特許法改正で103条が若干変更されました。
自明性の判断時が「有効出願日」(effective filing date)に変わりました。
改正前は発明時でした。
先願に移行したからです。
有効出願日とは、実際に米国に出願した日です。
これが一番分かりやすい日ですが、有効出願日は他にもあります。

  1. 優先権主張を伴う出願の場合、先の出願日(国際出願を基礎として優先権主張をする場合も先の出願日、すなわち国際出願日)
  2. 継続出願(120条)の場合の先の出願
  3. 分割出願(121条)の場合の先の出願

改正前の103条と変更がない点

日本特許法29条の2に類似の規定である米国特許法新102条(a)(2)における先行技術は、改正以前の米国特許法103条に適用されます。
つまり、先願の明細書や図面に記載の技術を後願のクレームに記載していた場合、これは自明性の判断の際に先行技術として考慮され、改正後も引き続きこのような技術は先行技術とされます。
米国特許法新102条(a)(2)訳
「特許請求された発明は、151条により発行された特許に記載され、あるいは出願公開された特許出願に記載され、あるいは122条(b)により出願公開されたとみなされた特許出願に記載されていた場合であって、特許出願が他の発明者の氏名を列記し、特許請求された発明の有効出願日以前に有効に出願された場合は、特許請求された発明は特許を受けることができない。」
つまり特許が発行された際の公報に記載されていたり、出願公開公報に記載されていた発明は、明細書や図面に記載のものであっても、それが後願のクレームに記載されていた場合は、後願は新規性がないというものです。

“Anticipation”は「新規性なし」

オフィスアクションにおいて”anticipate””anticipation”という文言が使われることがあります。
これは「予測する」「予測」の意味であり、自明性を指すように思われますが、これは「新規性がない」「新規性の欠如」と訳す必要があります。
MPEP2131のタイトルは、”2131 Anticipation – Application of 35 U.S.C. 102(a),(b), and(e)”であり、102条の条文が挙がっていることから考えると、これは自明性より新規性を指しています。

MPEP2131

“TO ANTICIPATE A CLAIM, THE REFERENCE MUST TEACH EVERY ELEMENT OF THE CLAIM
“A claim is anticipated only if each and every element as set forth in the claim is found, either expressly or inherently described, in a single prior art reference.” Verdegaal Bros. v. Union Oil Co. of California, 814 F.2d 628, 631, 2 USPQ2d 1051, 1053(Fed. Cir. 1987).

「クレームを新規性なきものとするためには、引例はそのクレームのすべての構成要件を教示している必要がある。」
「クレームは、そのクレームに記載されたあらゆる構成要件が、単一の先行技術文献に明示的あるいは本来的に記載されていると認定された場合のみ、新規性がない。」(Verdegaal Bros. v. Union Oil Co. of California, 814 F.2d 628, 631, 2 USPQ2d 1051, 1053(Fed. Cir. 1987).)

構成要件がすべて先行技術に開示されている場合は、新規性がないとされます。
このとき”anticipation”と表現されることがあります。
すなわち、新規性がないとは、クレーム記載の発明がすべて先行技術に開示され、先行技術と同一である場合を指しますが、自明性は、クレーム記載の発明と先行技術の差異が当業者にとって自明である場合を指します。

今週のポイント

  • オフィスアクションにおいて自明性による拒絶は、「本発明は、〜の発明を考慮すると、〜の発明から見て、米国特許法103条により自明である。」という表現がされることが多い。
  • 今回の米国特許法改正により。103条の文言中、「発明時」が「有効出願日」(effective filing date)に変わっている。
  • 日本特許法29条の2に類似の規定である米国特許法新102条(a)(2)における先行技術は、改正以前の米国特許法103条には適用され、改正後も引き続き適用される。
  • 先願の明細書や図面に記載の技術を後願のクレームに記載していた場合、これは自明性の判断の際に先行技術として考慮される。
  • 有効出願日とは、実際に米国に出願した日であり、(1)優先権主張を伴う出願の場合、先の出願日、(2)継続出願(120条)の場合の先の出願日、(3)分割出願(121条)の場合の先の出願日である。
  • オフィスアクションにおいて”anticipate””anticipation”という文言が使われることがあり、これは「新規性がない」「新規性の欠如」と訳す。
  • 新規性がないとは、クレーム記載の発明がすべて先行技術に開示され、先行技術と同一である場合を指すが、自明性は、クレーム記載の発明と先行技術の差異が当業者にとって自明である場合を指す。

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