第39回 自明性の判断基準KSR判決

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自明性(obviousness)とは、米国特許法103条に規定されている特許要件の一つで、先行技術からみて本発明が自明であるということ、つまり先行技術と本発明の差異が当業者からみて自明であることを意味します。
自明性の判断基準に関しては2006年にKSR判決という画期的な最高裁判決が出されました。自明性の判断に関し、地裁はTSMというテストを採用していました。”teaching, suggestion or motivation”(教示、示唆、動機付け)です。つまり先行技術に本発明の教示、示唆、動機付けがあったかどうかです。もしこれがあれば自明性はないということになります。また自明性の判断には、商業的成功があったか、長年懸案だった課題が解決したかなどの点が考慮されることもあります。

KSR事件とは

KSR事件とは、米国特許第6237565号B1「電子スロットル制御を備えた調節可能なペダル機構」(Engelgau特許)という名称の発明です。Teleflexはこの特許につき排他的ライセンスを有しており、KSRのペダル装置がEngelgau特許のクレーム4を侵害していると主張しました。ご存知のように、排他的ライセンスを有する者が第三者に対して侵害であると主張することはできます。これに対してKSRはこの特許のクレーム4は自明であるため無効である、と主張しました。そこで自明性の判断基準が問題となった事件です。
クレーム4は、電子センサと調節可能な自動車用ペダルを組み合わせると、ペダルの位置が自動車エンジンのスロットルを調節するコンピュータに伝達される、という技術です。
クレーム4は以下のように記載しています。

“A vehicle control pedal apparatus comprising:a support adapted to be mounted to a vehicle structure;
an adjustable pedal assembly having a pedal arm moveable in for[e] and aft directions with respect to said support;
a pivot for pivotally supporting said adjustable pedal assembly with respect to said support and defining a pivot axis; and
an electronic control attached to said support for controlling a vehicle system;
said apparatus characterized by said electronic control being responsive to said pivot for providing a signal that corresponds to pedal arm position as said pedal arm pivots about said pivot axis between rest and applied positions wherein the position of said pivot remains constant while said pedal arm moves in fore and aft directions with respect to said pivot.”

「車両構造に搭載されるように構成された支持機構と、
前記支持機構に関して、前後方向に可動なペダルアームを有する調節可能なペダル機構と、
前記支持機構に関して前記調節可能なペダル機構を旋回可能に支持し、ピボット軸を画定するピボットと、
車両システムを制御する前記支持機構に取り付けられた電子制御手段とを備え、
前記電子制御手段が、前記ペダルアームがレストと適用された位置の間の前記ピボット軸の周囲を旋回するにつれて、ペダルアーム位置に対応する信号を供給するために前記ピボットに応答し、前記ピボットの位置は、前記ピボットに関して、前項方向に動くことを特徴とする、装置。」

このクレームは先行技術を組み合わせることにより自明であるとして拒絶されたため、限定されました。TeleflexはKSRを本特許および他の2件の特許権の侵害であるとして訴えましたが、後に他の2件の特許に関するクレームは放棄されたため、侵害であるか否かの範囲はクレーム4に集中されました。
なお、米国特許法282条で特許は有効性の推定を受けます。したがって侵害と主張され特許の無効を主張する者は、この推定を覆す必要があります。

  1. 地裁はTSMテストを採用したか?
    自明性の判断に関し、地裁はTSMというテストを採用していました。”teaching, suggestion or motivation”(教示、示唆、動機付け)です。つまり先行技術に本発明の教示、示唆、動機付けがあったかどうかです。もしこれがあれば自明性はないということになります。
  2. 連邦巡回控訴裁判所(CFAC)は、地裁のTSMテストは誤っていたと判断
    連邦巡回控訴裁判所は、地裁はTSMテストを厳密には適用していなかったと判断しました。つまり地裁は、先行技術文献が、特許権者が解決しようとする課題に対処していないのであれば、発明者が課題を解決するために引例を参照するように動機付けられることもないため、課題の本質に対する地裁の依拠は不十分であるとしました。
    地裁は、TSMを厳格に適用しなかったと判断しました。
  3. 最高裁の判断
    最高裁はCFACのTSMテストに反映される自明性の審理は狭いと判断しました。
    そして「特許クレームの主題が自明であるか否かを判断する際に、特許権者の特定の動機付けも自認した目的も働かない。問題は、クレームの客観的範囲である。クレームが自明である範囲に及ぶのであれば、103条により無効である。特許の主題が自明であると立証できる手法の一つは、発明の時点で、特許クレームに含まれる自明な解決手段のための公知の課題が存在したこと着目したことによる。」と判断しました。
    CAFCは、裁判所および特許審査官は、特許権者が解決しようとする課題のみを参照することにより、この理由付けを排除した点で誤っていたと判断しました。
    「CAFCは、特許権者を動機付ける課題は、特許の主題が対処する多くの課題の一つに過ぎない場合がある、と認識しなかった。課題は、組合せは特許権者にとって自明であったか否かではなく、組合せは当業者にとって自明であったか否かである。正しい分析の下では、発明の時点で当該技術分野で知られ、当該特許が対処する課題に対する必要性は、特許請求された態様で構成要件を組み合わせる理由付けを提供しうる。」と判断しました。
    結果として最高裁は、クレーム4は自明であると判断しました。先行技術の組合せ(AsanoとSmith)と調節可能なクレーム4の調節可能な電子ペダルはほぼ差異がないと判断したからです。組合せの態様はクレーム4に含まれる態様です。

今週のポイント

  • 自明性(obviousness)とは、米国特許法103条に規定されている特許要件の一つで、先行技術からみて本発明が自明であるということ、つまり先行技術と本発明の差異が当業者からみて自明であることを意味する。
  • 自明性の判断に関しては、TSMテストが採用されることがある。これは、TSM(“teaching, suggestion or motivation”)は「教示、示唆、動機付け」であり、本発明の教示、示唆、動機付けがあったかどうかである。もしこれがあれば自明性はない。
  • 2006年に自明性の判断基準に関するKSR判決が出された。Teleflexが米国特許第6,237,565号に排他的ライセンスを有しており、KSRに対しクレーム4の侵害であると主張した事件である。
  • 自明性の判断に関し、地裁はTSMというテストを採用し、クレーム4が自明であると判断した。CAFCは、地裁は、先行技術文献が、特許権者が解決しようとする課題に対処していないのであれば、発明者が課題を解決するために引例を参照するように動機付けられることもないため、課題の本質に対する地裁の依拠は不十分であるとした。
  • 最高裁は、CFACのTSMテストに反映される自明性の審理は狭いと判断したが、結果的にはクレーム4は自明であると判断した。
  • 自明性の判断には、商業的成功があったか、長年懸案だった課題が解決したかなどの点が考慮されることもある。

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