第36回 侵害行為における弁護士の助言

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特許権の侵害に関し、弁護士の助言を得る必要はない、つまり侵害のおそれがある行為を開始する前に、弁護士の助言を得なかったからといって、これを故意侵害の立証としては利用されないことを規定した298条が、今回の改正で米国特許法に新たに設けられました。これは、特許権者による故意侵害の立証について判断したSeagate判決を受けてなされたものです。
まず、侵害者には侵害行為開始前に弁護士の助言を得る義務があるとしたUnderwater判決からです。

Devices Incorporated, v.s. Morrison-Knudsen Company, Inc.,判決

「潜在的に侵害している者が、他人の特許権の存在に実際に気付いた場合は、この潜在的侵害者は、自分が侵害しているか否かを判断するために相当な注意を払う義務がある。」「このような積極的義務には、特に起こりうる侵害行為の開始以前に、弁護士から相当な鑑定を求め、かつこれを受け取る義務がある。」.(Underwater Devices Incorporated, v.s. Morrison-Knudsen Company, Inc., 717 F.2d 1380, 1389-1390(Fed.Cir.1983)
つまり、この判決では、侵害となり得る行為を開始する前に、侵害にあたるかどうかの弁護士の助言を得る義務があるとされています。

そもそも、米国特許法284条には、損害額について以下のように規定されています。

35USC 284

“Upon finding for the claimant the court shall award the claimant damages adequate to compensate for the infringement but in no event less than a reasonable royalty for the use made of the invention by the infringer, together with interest and costs as fixed by the court.
When the damages are not found by a jury, the court shall assess them. In either event the court may increase the damages up to three times the amount found or assessed. Increased damages under this paragraph shall not apply to provisional rights under section 154(d)of this title.
The court may receive expert testimony as an aid to the determination of damages or of what royalty would be reasonable under the circumstances.”

「原告に対して有利な認定をする際し、裁判所は、原告に対する侵害の賠償に適切な損害賠償を認定するが、侵害者により、発明の利用に対する適切なロイヤリティー、並びに裁判所が決定した費用を下回ってはならない。
損害賠償が陪審により認定されない場合は、裁判所がこれを認定する。いずれの場合も、裁判所は、認定または査定した額の3倍まで損害賠償を増額することができる。増額された損害賠償は、154条(d)による暫定的権利には適用されない。
裁判所は、損害賠償の認定、あるいは当該状況下でいずれのロイヤルティーが適切であるかの一助として、専門家による鑑定を受けることができる。」

特許侵害がなされた場合、故意の侵害の立証責任はどちらにあるでしょうか。つまり、侵害した者が故意で侵害しているという事実を立証するのは特許権者でしょうか。あるいは侵害者は自分が故意で侵害していなかったと立証すればよいのでしょうか。
Seagate判決では、故意侵害(willful infringement)の立証責任は特許権者にあるとされています。そしてこのとき、故意の判断基準として、”reckless”(無謀さ)という概念が使われています。つまり、侵害者が無謀に侵害行為を行った場合、故意侵害であることの根拠となります。
客観的基準には”reckless”と”reasonableness”があるとされています。そして”reckless”は、侵害の可能性を無視して行動したということです。
特許権者は、客観的な侵害のリスクを侵害者が知っていたか、あるいは知ることができる程度に自明であったかを立証する必要があります。

このような判例を踏まえて、今回の米国特許法改正では、侵害の立証に関するある改正がなされました。298条を米国特許法に新たに設置し、弁護士の助言を得ていないことを理由として、故意に侵害したか、あるいは侵害を誘発する意図があったことの立証の根拠とはされない、という規定を設けました(改正法17条)。

米国特許法に298条という条文が新たに設けられました。

Ҥ 298. Advice of counsel

“The failure of an infringer to obtain the advice of counsel with respect to any allegedly infringed patent, or the failure of the infringer to present such advice to the court or jury, may not be used to prove that the accused infringer willfully infringed the patent or that the infringer intended to induce infringement of the patent.”.
(b)CONFORMING AMENDMENT.–The table of sections for chapter 29 of title 35, United States Code, is amended by adding at the end the following:
“298. Advice of counsel.”.

「侵害者が、侵害と主張された特許について弁護士の助言を得なかったこと、あるいは侵害者が裁判所または陪審に対し、当該提示しなかったことにより、被疑者が故意に特許を侵害したこと、あるいは侵害者が特許の侵害を誘発する意図があったことの立証に利用されない。」
ここで新たに規定されたのは、侵害者が侵害行為を行う前に、弁護士の助言を得ず、あるいは助言を得てもこれを裁判所や陪審に提出しなかったからといって、これを故意侵害の証拠や侵害誘発の意図の証拠としては利用されないということです。
298条の条文が新設されたことにより、米国特許法のタイトルリストにも、「298条弁護士の助言」が追加されました。

Underwater判決では、弁護士の助言を得ることの積極的義務は侵害者にあるという判断が下され、Seagate判決では、特許権者が侵害者が侵害のリスクを知っていた否かを立証する責任があると判断され、これらの判例を受けて、今回、298条が新たに設けられました。つまり、特許権者が故意による侵害の立証をする際に、侵害者が弁護士の助言を得なかったことを、故意侵害または侵害を誘発する意図があったことの証拠として利用できない、ということが定められました。

今週のポイント

  • 特許権の侵害に関し、弁護士の助言を得る必要はない、つまり侵害のおそれがある行為を開始する前に、弁護士の助言を得なかったからといって、これを故意侵害の立証としては利用されないことを規定した298条が、今回の改正で米国特許法に新たに設けられた。
  • Underwater判決では、侵害となり得る行為を開始する前に、侵害にあたるかどうかの弁護士の助言を得る義務があるとされている。
  • Seagate判決では、故意侵害(willful infringement)の立証責任は特許権者にあり、故意の判断基準として、”reckless”(無謀さ)という概念が導入されている。

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