第10回 出願時の提出書類の記載(クレームと要約)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

今回は請求項(クレーム)と要約の記載方法を説明します。クレームは特許請求をする発明を記載しており、出願書類の中で最も重要な部分です。クレームの記載には最新の注意が必要であり、特許翻訳をする際にも訳抜けがあってはならない部分です。要約は発明の概要を記載した部分です。

クレームの種類と記載

ステップを羅列したクレーム
前回の「ゴルフのパッティング方法」(米国特許第5616089号)のクレームを訳しながら、方法のクレームを説明していきます。

I claim:

“1. A method of gripping a putter comprising the steps:
gripping a putter grip with a dominant hand;
placing a non-dominant hand over an interior wrist portion of the dominant hand behind a thumb of the dominant hand;
resting a middle finger of the non-dominant hand on the styloid process of the dominant hand;
pressing a ring finger and a little finger of the non-dominant hand against the back of the dominant hand;
pressing the palm of the non-dominant hand against a forward surface of the putter grip as the non-dominant hand squeezes the dominant hand”.

「パターを握る方法であって、
利き手でパターグリップを握るステップと、
非利き手を、利き手の親指の後ろの利き手の内側の手首部分の上に非利き手を置くステップと、
利き手の茎状突起の上に非利き手の中指を置くステップと、
利き手の背面に対して、非利き手の薬指と小指を押し付けるステップと、
非利き手が利き手を圧迫する際に、非利き手の掌をパターグリップの正面に対して押し付けるステップとを備えたことを特徴とする、方法。

解説

“comprising the steps of〜”という表現でステップを列挙していく方法の発明のクレームです。この発明の場合は人間が行う、”gripping”, “placing”, “resting”するステップであり、主語を記載せず、単に人間の動作を列挙しています。「〜を握り」「〜を配置し」「〜を置き」のように動作を訳していきますが、「〜を握るステップ」「〜を配置するステップ」「〜を置くステップ」のように”a step of gripping”. “a step of placing”, “a step of resting”と記載されているものとして訳してもよいです。

“2. A method of gripping a putter as recited in claim 1 further comprising the steps of:
placing a thumb on the non-dominant hand on a forearm of the dominant hand; and
adjusting the orientation of a putter blade by moving the thumb on the non-dominant hand clockwise or counter-clockwise with respect to the forearm of the dominant hand.”

「利き手の前腕に非利き手の親指を配置するステップと、
非利き手の親指を利き手の前腕に対して時計回り又は反時計回りに動かすことにより、パターブレードの方向を調整するステップとを更に備えたことを特徴とする、請求項1に記載の方法。」

解説

“further comprising”という表現でクレーム1にステップを追加しています。「〜ステップを更に備えたことを特徴とする」と訳します。

“3. A method as recited in claim 1 wherein the putter grip has a front surface that is flat, and the palm of the non-dominant hand presses against the flat forward surface of the putter grip.”

「パターグリップは平らな前面を有し、非利き手の掌を、パターグリップの平らな前面に押し付けることを特徴とする、請求項1に記載の方法。」

解説

“as recited in claim 1″の表現からもわかるように、これはクレーム1の従属項です。つまりクレーム1があって初めて存在するクレームであり、クレーム3は独立して存在しません。従属項は、独立項であるクレーム1を更に限定しています。
“pressing the palm of the non-dominant hand against a forward surface of the putter grip”というステップがクレーム1にはありますが、これを更に詳しく説明しています。クレーム1では単に「非利き手の掌をパターグリップの前面に押し付ける」といっていますが、「パターグリップが平らな前面を有し」「非利き手の掌をこのパターグリップの平らな前面に押し付ける」と説明しています。

“4. A method of gripping a putter as recited in claim 1 wherein the dominant hand is positioned between two to four inches below a top end of the putter grip.”

「利き手は、パターグリップの上端から下に2〜4インチの間に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。」

解説

クレーム1に” gripping a putter grip with a dominant hand”とあり、利き手がパターグリップに置かれる位置を数値を挙げて限定しています。このような限定は権利範囲を狭めるものであるため、独立項であるクレーム1で数値限定がされることはまずありません。パターグリップのこの範囲に利き手が置かれる場合しか権利が及ばなくなるからです。このように詳細に数値限定してクレーム1を説明しておき、権利行使をする際にはクレーム1のみを行使の根拠とすればよいのです。

“5. A method of putting comprising the steps of:
gripping a putter having a shaft length of at least 32 inches by gripping a grip of the putter with a dominant hand;
placing a non-dominant hand over an interior wrist portion of the dominant hand behind a thumb of the dominant hand;
resting a middle finger on the non-dominant hand on the styloid process of the dominant hand;
pressing a ring finger and a little finger of the non-dominant hand against the back of the dominant hand;
pressing the palm of the non-dominant hand against a forward surface of the putter grip as the non-dominant hand squeezes the dominant hand; and
stroking the putter to impact a golf ball with a blade of the putter.”

「利き手でパターのグリップを握ることにより少なくとも32インチのシャフト長を有するパターを握るステップと、
非利き手を、利き手の親指の後ろの利き手の内側の手首部分の上に非利き手を置くステップと、
利き手の茎状突起の上に非利き手の中指を置くステップと、
利き手の背面に対して、非利き手の薬指と小指を押し付けるステップと、
非利き手が利き手を圧迫する際に、非利き手の掌をパターグリップの正面に対して押し付けるステップと、
パターをブレードによりゴルフボールに衝撃を与えるために、パターを打つステップとを備えたことを特徴とする、方法。

解説

このクレームはクレーム1とは異なる独立項ですが、内容はほぼ同じです。「グリップのシャフトが32インチ以上」あること、「パターブレードによりゴルフボールに衝撃を与える」ことが追加されています。

ミーンズプラスファンクションクレーム(means plus function claim)

手段と機能を列挙していくクレームです。
“A system comprising means for inputting …, “means for displaying …”のように「〜を入力する手段、〜を表示する手段とを備えたことを特徴とする、システム。」
例えばUS Patent No. 7,477,909号のクレーム27はこの形式のクレームです。

“A system for returning query results over a wireless mobile device system comprising:a mobile device means comprising:means for inputting speech; means for converting speech to text; means for converting said text to a message that is compatible with said text protocol; means for transmitting said message over a wireless network; and means for displaying search results; and a search means comprising:means for performing a search based on terms of said message; and means for returning search results over said wireless network”.

「無線モバイル機器システムによりクエリー結果を返すシステムであって、モバイル機器手段は、
音声を入力する手段と、
音声をテキストに変換する手段と、
前記テキストを前記テキストプロトコルに適合するメッセージに変換する手段と、
前記メッセージを無線ネットワークを介して送信する手段と、
検索結果を表示する手段とを備え、
検索手段は、
前記メッセージのタームに基づき検索を実行する手段と、
前記無線ネットワークを介して検索結果を返す手段とを備えたことを特徴とする、システム。」

解説

“means for 〜 ing”で・手段とその機能を記載することによりクレームの構成要件を特定しています。
ミーンズ・プラス・ファンクションクレーム関しては米国特許法112条6項に規定があります。

“An element in a claim for a combination may be expressed as a means or step for performing a specified function without the recital of structure, material, or acts in support thereof, and such claim shall be construed to cover the corresponding structure, material, or acts described in the specification and equivalents thereof

「組合せのためのクレームの構成要件は、構造、材料、これらを支持する行為を記載することなく、特定の機能を実行する手段又はステップとして表現してもよく、かかるクレームは、明細書及びこれに相当する部分に記載された対応する構造、材料、行為をカバーするものとして解釈される。」

解説

直接、構造、材料、行為を記載するのではなく、これを実行する手段、ステップを記載するのがミーンズプラスファンクションクレームです。しかし特許権は、構造、材料、行為に及ぶものと解釈される、というのがこの条文の趣旨です。

マーカッシュクレーム(Markush claim)

次にマーカッシュクレームを見てみましょう。US Patent No. 5391385を挙げます。

2. The process of claim 1, wherein the amorphous silica is selected from the group consisting of silica gel, precipitated silica and fumed silica, and the alumina is selected from the group consisting of activated alumina, calcined alumina, hydrated alumina, precipitated alumina, pseudoboehmite, bayerite and gamma alumina.

「非晶質シリカは、シリカゲル、沈降シリカ、フュームシリカから成る群から選択され、アルミナは、活性アルミナ、か焼アルミナ、水酸化アルミニウム、沈殿アルミナ、擬ベーマイト、ベイライト、ガンマーアルミナから成る群から選択されることを特徴とする、請求項1の方法。」

解説

“selected from a group consisting of 〜”(〜成る群から選択される)というクレーム形式であり、マーカッシュクレームといいます。特に化学関係のクレームで多く使われています。

ジェプソンタイプのクレーム

ジェプソンクレーム(Jepson Claims)というタイプのクレームの記載があります。
日本語に訳すと、「〜において〜を特徴とする」となるのであり、「〜において」の部分は公知技術であるとみなされます。非常に簡単な例を挙げると、”A pencil characterized in that it has an eraser at a rear end”(「鉛筆において、〜後端部に消しゴムを有することを特徴とする鉛筆。」というクレームの場合、「鉛筆において」の部分(前提部分)は公知の鉛筆であり、「後端部に消しゴムを有する」が特徴部分です。
これは、”two-part”形式というヨーロッパ型のクレームです。これに対し、”a pencil comprising an eraser, a grip, ・・・・”のように構成要件を列挙するクレームを”one part”形式といいアメリカ型のクレームです。

MPEP2129 Ⅲ

“Drafting a claim in Jepson format(i.e., the format described in 37 CFR 1.75(e); see MPEP § 608.01(m))is taken as an implied admission that the subject mater of the preamble is the prior art work of another. In re Fout, 675 F.2d 297, 301, 213 USPQ 532, 534(CCPA 1982)(holding preamble of Jepson-type claim to be admitted prior art where applicant’s specification credited another as the inventor of the subject matter of the preamble). However, this implication may be overcome where applicant gives another credible reason for drafting the claim in Jepson format. In re Ehrreich, 590 F.2d 902, 909-910, 200 USPQ 504, 510(CCPA 1979)(holding preamble not to be admitted prior art where applicant explained that the Jepson format was used to avoid a double patenting rejection in a co-pending application and the examiner cited no art showing the subject matter of the preamble). Moreover, where the preamble of a Jepson claim describes applicant’s own work, such may not be used against the claims. Reading & Bates Construction Co. v. Baker Energy Resources Corp., 748 F.2d 645, 650, 223 USPQ 1168, 1172(Fed. Cir. 1984); Ehrreich, 590 F.2d at 909-910, 200 USPQ at 510″

ジェプソン形式のクレームを作成すること(すなわち37CFR 1.75(e)に記載の様式、MPEP608.01(m)参照)は、プリアンブルの主題が他者の先行技術である、という暗黙の了解として解釈される。In re Fout, 675 F.2d 297, 301, 213 USPQ 532, 534(CCPA 1982)(出願人の明細書が、プリアンブル(前提部)の主題の発明者として他者を認めた場合に、ジェプソンタイプのクレームのプリアンブルは、容認された先行技術であると認定)。しかし、この暗黙の了解は、出願人がジェプソン形式のクレームを作成する他の信憑性ある理由を提示する場合は覆すことができる。In re Ehrreich, 590 F.2d 902, 909-910, 200 USPQ 504, 510(CCPA 1979)(ジェプソン形式が、共同出願のダブルパテントによる拒絶を回避するために利用され、審査官がプリアンブルの主題を示す技術を引用しなかったことを出願人が説明した場合は、プリアンブルは容認された先行技術ではないと認定)。更にジェプソンクレームのプリアンブルが出願人自身の創作を記載している場合、これはクレームに対して利用できない(Reading & Bates Construction Co. v. Baker Energy Resources Corp., 748 F.2d 645, 650, 223 USPQ 1168, 1172(Fed. Cir. 1984); Ehrreich, 590 F.2d at 909-910, 200 USPQ at 510.)。

解説

「〜において」の部分が先行技術であると出願人が明細書の中で認めている場合は、これはその通りに解釈されてしまいます。しかしこれを覆すには、出願人がダブルパテントによる拒絶回避のためにジェプソンタイプのクレームを利用し、審査官もプリアンブル記載の技術を引用していないことを示せばよいのです。ダブルパテントによる拒絶とは、同一の出願人が同一の複数の発明を出願している場合、ダブルパテントとして拒絶され、これを回避するためのジェプソンタイプのクレームを使用することがあります。

クレームの記載に関する条文

35USC 112,

4 “Subject to the following paragraph, a claim in dependent form shall contain a reference to a claim previously set forth and then specify a further limitation of the subject matter claimed. A claim in dependent form shall be construed to incorporate by reference all the limitations of the claim to which it refers”.

「以下の項に従うことを条件として、従属形式のクレームは、それより前に記載されたクレームに対する参照を含むものとし、特許請求された主題の更なる限定を特定するものとする。従属形式のクレームは、これが参照するクレームのあらゆる限定を参照により組み込むように解釈されるものとする。」

5 “A claim in multiple dependent form shall contain a reference, in the alternative only, to more than one claim previously set forth and then specify a further limitation of the subject matter claimed. A multiple dependent claim shall not serve as a basis for any other multiple dependent claim. A multiple dependent claim shall be construed to incorporate by reference all the limitations of the particular claim in relation to which it is being considered”.

「多数従属形式のクレームは、それより前に記載された2以上のクレームに対する参照のみを含み、特許請求された主題の更なる限定を特定するものとする。多数従属クレームは、他のいずれの多数従属クレームの根拠としても機能しない。多数従属クレームは、これが関連しているとみなされる特定のクレームの全ての限定を参照により組み込むものと解釈されるものとする。」
多数従属形式に関しては更に規定があります。

37CFR1.75

One or more claims may be presented in dependent form, referring back to and further limiting another claim or claims in the same application. Any dependent claim which refers to more than one other claim(“multiple dependent claim”)shall refer to such other claims in the alternative only. A multiple dependent claim shall not serve as a basis for any other multiple dependent claim.

「1又は複数のクレームは、同じ出願中の他の1又は複数のクレームに戻って参照し、かつ更に限定するものとして従属形式で提示してもよい。2以上の他のクレームを参照する従属クレーム(多数従属クレーム)は、当該他のクレームのみを参照するものとする。多数従属クレームは、他の多数従属クレームの根拠としてはならない。」

解説

請求項3が、「請求項1,2に記載のパソコン」のように複数の請求項を引用している従属項を多数従属項といいます。これが「2以上の他のクレームを参照する従属クレーム」です。しかし、例えば請求項5が更に、「請求項3, 4に記載のパソコン」のように、他の多数従属クレームが参照することは認められません。これは従属関係が複雑になるからです。」

Abstract(要約)

前出の「ゴルフのパッティング方法」(米国特許第5616089号)の要約です。

“A method of putting features the golfer’s dominant hand so that the golfer can improve control over putting speed and direction. The golfer’s non-dominant hand stabilizes the dominant hand and the orientation of the putter blade, but does not otherwise substantially interfere with the putting stroke. In particular, a right-handed golfer grips the putter grip with their right hand in a conventional manner so that the thumb on the right hand is placed straight down the top surface of the putter grip. The golfer addresses the ball as if to stroke the putter using only the right hand. Then, the golfer takes the left hand and uses it to stabilize the right hand and the putter”.

「ゴルファーがパッティング速度と方向に対するコントロールを改善できるように、ゴルファーの利き手を特徴付けるパッティング方法。ゴルファーの非利き手は、利き手及びパターブレードの方向を安定化させるが、パターストロークを実質的に妨げない。特に右利きのゴルファーは、右手の親指をパターグリップの上面から下にまっすぐに置くような従来の方法で、右手でパターグリップを握る。ゴルファーは、右手のみを利用してパターを打つようにボールにアドレスする。次にゴルファーは、左手をとってこれを利用して、右手及パターを安定させる。」

MPEP608.01
37 CFR 1.72 Title and abstract.

(b)A brief abstract of the technical disclosure in the specification must commence on a separate sheet, preferably following the claims, under the heading “Abstract” or “Abstract of the Disclosure.” The sheet or sheets presenting the abstract may not include other parts of the application or other material. The abstract in an application filed under 35 U.S.C. 111 may not exceed 150 words in length. The purpose of the abstract is to enable the United States Patent and Trademark Office and the public generally to determine quickly from a cursory inspection the nature and gist of the technical disclosure.

「(b)明細書の技術的開示の簡潔な要約は、別紙から始めることが必要であり、「要約又は開示の要約」という表題によりクレームの後に記載されることが好ましい。要約を示す1枚又は複数枚の要旨は、出願の他の部分又は他の資料を含めることはできない。 米国特許法111条によりされた出願の要約は、150ワードを超えてはならない。要約の目的は、米国特許庁及び公衆が概観することにより、技術的開示の性質及び趣旨を決定できることである。」

解説

要約は150ワード以内であり、発明の概要を開示し、これを見ることにより発明を把握できることが必要です。

今週のポイント

  • クレームの形式には、マーカッシュ・クレーム(Markush claim), ジェプソンクレーム(Jepson claim), ミーンズ・プラス・ファンクションクレーム(means plus function claim)などがある。
  • マーカッシュ・クレーム(Markush claim)は、「〜から選択されることを特徴とする」という形式のクレームである。
  • ジェプソンクレームは、「〜であって、…を特徴とする」という形式のクレームであり、「〜であって」の部分には公知事項が記載され、「…を特徴とする」には新規な特徴部分が記載される。これは公知部分(前提部分)と特徴部分の2つの部分から成るため、”two-part”形式という欧州型のクレームである。これに対し”〜 comprising ・・・”は構成要件を列挙する”one-part”形式という米国型のクレームである。
  • 要約は150ワード以内であり、発明の概要を開示し、これを見ることにより発明を把握できることが必要である。

特許翻訳のお問い合わせはインターブックスにどうぞ

技術背景を持ち、それぞれの国の法制度の事情を理解したネイティブ翻訳者が翻訳を担当いたします。
日本特許庁・米国特許商標庁・欧州特許庁・中国特許庁・韓国特許庁の出願要件に則って特許明細書を翻訳し、お客様のご要望にお応えいたします。
電話番号 03-5212-4652
お問合せはこちら

関連する記事