第9回 米国特許法規にはどんな法律があるか

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今回のテーマ
1米国特許法規にはどんな法律があるか
(1)米国特許法、(2)米国特許法規則、(3)MPEP
2出願時の提出書類の記載
(1)明細書(要約、クレームは次回)

米国特許法規にはどんな法律があるか

米国特許実務はどのような法令に基づいて行われるのでしょうか。米国特許法があることはご存知でしょう。そのほかに37CFRという米国特許の規則やMPEPという審査基準があります。これらは実務上根拠とされる条文であり、明細書やクレームの記載、その他実務上の様々なことが規定されています。

(1)35 USC(米国特許法)

米国特許法を見るにはどのようにしたらよいでしょうか。米国特許庁WebサイトのPatent Process→Laws, Regulations, Policies & Proceduresの順に進むと、35 U.S.C.(米国特許法)、37CFR, MPEPなどを見ることができます。
35 USC は正式にいうと、United States Code, Title 35です。正式には「合衆国法典第35巻」といい、「米国特許法」と簡単に訳しています。特許法は合衆国法典の第35巻に収められています。(ここでおわかりのように、Code”とは法律英語では「法典」を意味します)。
例えば35 USC112は、米国特許法112条です。明細書の記載方法を規定した条文であり、今回のテーマであるので1項、2項を訳してみましょう(「項」は”paragraph”といいます。米国特許法112条1項であれば、”35USC 112, para. 1″と表記します)。
35 U.S.C. 112 Specification(米国特許法112条)

“The specification shall contain a written description of the invention, and of the manner and process of making and using it, in such full, clear, concise, and exact terms as to enable any person skilled in the art to which it pertains, or with which it is most nearly connected, to make and use the same, and shall set forth the best mode contemplated by the inventor of carrying out his invention.
The specification shall conclude with one or more claims particularly pointing out and distinctly claim¬ing the subject matter which the applicant regards as his invention”.

「明細書は、発明及びこれを生産し、かつ使用する態様及び方法を、発明が関連する技術分野、又は発明が最も密接に関連する技術分野において通常の知識を有する者(当業者)が、当該発明を生産し、かつ使用することができるように、完全、明確、簡潔及び正確な文言による記述を含んでおり、発明を実施するために発明者が考え得る最良の実施形態(ベストモード)を記載するものとする。」
「明細書は、出願人が発明とみなす主題を特に指摘し、かつ明確に特許請求する1つ以上のクレームで完結するものとする。」

解説

明細書は当業者(つまりその発明の技術分野の専門家)が明細書を見て発明を実施できるように明確、簡潔に記載され、最良の実施例を記載する必要があることを規定したのが1項です。「当業者」は特許実務では当たり前のように使う文言であり、” any person skilled in the art to which it pertains, or with which it is most nearly connected”と長い文章で規定されていますが、”a person skilled in the art”, “a person ordinarily skilled in the art”のように簡潔に表現されます。
クレームは、明細書のうち特許請求したい部分を記載するものです。つまり明細書の中で特許請求する発明を抽出して記載しており、明細書の方がクレームより広いこととなります。」
日本の特許法でも同様の条文があり、「明細書は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであること」(特許法36条4項1号)、「特許を受けようとする発明(つまり特許請求の範囲に記載の発明)が発明の詳細な説明に記載したものであること」(特許法36条6項1号)が規定されており、これらは拒絶理由になっています。すなわちこの要件に違反すると特許出願が拒絶されます。
この他、米国特許で根拠とされる法令は以下のものがあります。

(2)37CFR(米国特許法規則)

米国特許法の他によく用いられるのが37CFRです。”Title 37- Code of Federal Regulations, Patents, Trademarks, and Copyrights”の略であり、実務では37CFRは頻繁に出てきます。これも35USCと同様の手順で米国特許庁Webサイトにて閲覧できます。
それでは明細書について規定した37 CFR 1.71の一部を訳してみます。

37 CFR 1.71 Detailed description and specification of the invention
(37CFR 1.71 発明の詳細な説明及び明細書)

(a)The specification must include a written description of the invention or discovery and of the manner and process of making and using the same, and is required to be in such full, clear, concise, and exact terms as to enable any person skilled in the art or science to which the invention or discovery appertains, or with which it is most nearly connected, to make and use the same.

「明細書は、発明及び発見、及び発明及び発見を生産し、かつ使用する態様及び方法の記述を含んでいる必要があり、発明又は発見の属する技術又は科学的分野、あるいは発明又は発見が最も密接に関連する技術又は科学的分野の通常の知識を有する者(当業者)が、当該発明又は発見を生産し、かつ使用することができるように、完全、明確、簡潔、正確な文言で記載することが必要である。」
(b)The specification must set forth the precise invention for which a patent is solicited, in such manner as to distinguish it from other inventions and from what is old. It must describe completely a specific embodiment of the process, machine, manufacture, composition of matter or improvement invented, and must explain the mode of operation or principle whenever applicable. The best mode contemplated by the inventor of carrying out his invention must be set forth.

「明細書は特許を請求する正確な発明を、他の発明及び従来のものと区別する態様で記載する必要がある。明細書は、方法、機械、製造物、組成物又は発明された改良物の特定の実施形態を完全に記載する必要があり、適切な場合は、作用又は原理の態様を説明する必要がある。発明を実施するために発明者が考え得る最良の実施形態(ベストモード)を記載する必要がある。」
(c)In the case of an improvement, the specification must particularly point out the part or parts of the process, machine, manufacture, or composition of matter to which the improvement relates, and the description should be confined to the specific improvement and to such parts as necessarily cooperate with it or as may be necessary to a complete understanding or description of it.

「改良の場合は、明細書は、当該改良が関連する方法、機械、製造物又は合成物の部分又は複数の部分を特に指摘する必要があり、記述は特定の改良、及び当該改良と必然的に協働する当該複数の部分、あるいは必要に応じて当該改良の完全な理解又は記述に限定される必要がある。」

解説

ここでも米国特許法112条と同様に、明細書は明確、簡潔に記載すること、ベストモードを記載する必要があると規定されています。更にここでは明細書は従来の技術と区別できるように記載する必要があると規定されています。従来技術と区別できなければ非自明性(進歩性)があるとはいえないからです。
更に改良についても規定されています。米国特許の発明の対象は、35 USC 101に”any new and useful process, machine, manufacture, or composition of matter, or any new and useful improvement thereof”(新規かつ有用な方法、機械、製造物又は合成物、あるいはこれらの新規かつ有用な改良)であると規定されています。つまり、”improvement”(改良)が発明の対象であることが条文で明確にされています。この改良に関する明細書の記載についても、37 CFR 1.71(c)に規定されています。
またここでは、”invention or discovery”(発明又は発見)という文言が使われています。発明だけでなく発見も特許の対象になることがわかります。35 USC 101においても、”Whoever invents or discovers any new and useful process … “(新規かつ有用な方法、・・・ を発明や発見をした者は」となっています。

(3)MPEP(米国特許審査基準)

実務で更に良く用いるのがMPEP(The Manual of Patent Examining Procedure)です。これも35USCや37CFRと同様の手順で米国特許庁Webサイトで見ることができます。審査官、代理人、その他の特許実務を行う者が参考にする審査基準であり、本文は”101 General 〜2764 Express Withdrawal of Application for Extension of Patent Term Extension”まで夥しい数の基準が定められています。例えば明細書について規定したMPEP608.01の一部です。

MPEP 608.01

“As the specification is never returned to applicant under any circumstances, the applicant should retain an accurate copy thereof. In amending the specification, the attorney or the applicant must comply with 37 CFR 1.121(see MPEP § 714).
Examiners should not object to the specification and/or claims in patent applications merely because applicants are using British English spellings(e.g., colour)rather than American English spellings. It is not necessary to replace the British English spellings with the equivalent American English spellings in the U.S. patent applications. Note that 37 CFR 1.52(b)(1)(ii)only requires the application to be in the English language. There is no additional requirement that the English must be American English.

「明細書はいかなる状況においても出願人に返却されないので、出願人はその正確な写しをとっておく必要がある。明細書を補正する際には、代理人又は出願人は37CFR 1.121に従う必要がある(MPEP 714参照)。
審査官は、出願人が、アメリカ英語の綴りではなくイギリス英語の綴り(例、colour)を使っているという理由のみで特許出願の明細書及び/又はクレームを拒絶してはならない。米国特許出願でイギリス英語の綴りを、それに相当するアメリカ英語の綴りに置き換える必要はない。37CFR1.52(b)(1)(ii)は、出願はイギリス英語で記載されることのみを要件としていることに注意されたい。英語はアメリカ英語であることが必要である、という付加的な要件はない。」

解説

37CFR 1.52(b)(1)(ii)には、出願その他の手続は”Be in the English language”と規定されています。つまり「英語で記載されること」が要件となっていますが、それ以外の要件は課されてません。

この他、米国の特許文書には数々の判決、審決が略語により表記されています。例えばMPEP1504.01には以下のような審決が引用されています。
Ex parte Gibson, 20 USPQ 249(Bd. App. 1933)
“USPQ”
The United States Patents Quarterlyであり、「米国特許審判決集」です。
“Bd. App.”
“The Board of Appeals and Interference(BPAI)”、つまり米国特許庁にある「特許審判抵触部」であり、審判事件を扱っています。
“Ex parte”
「査定系」という意味です。査定系審判には、当事者(審判請求人つまり特許出願人)が特許庁に対して請求する、審査官が行った拒絶に対する不服の審判があります。これに対立する概念である「当事者系審判」には、特許に対して無効を請求する審判があります。一方の当事者(審判請求人)が他方当事者(特許権者)に対して請求し、当事者が対立している構造なので、「当事者系審判」と呼ばれます。「当事者系」は”inter partes”です。
“Ex parte”, “Inter partes”は共にラテン語の単語です。これらを審判の当事者名に付して、”Ex parte Gibson”のように審判事件名としています。

この他、実務では判決が根拠とされることがあり、例えば以下のように表記します。
“In re Katz, 687 F.2d 450, 215 USPQ 14(CCPA 1982)”
これはMPEP2132.01の中にある表記であり、”CCPA 1982″は、CCPA(Court of Customs and Patent Appeals)、すなわち米国関税特許控訴裁判所1982年の判決であることを意味しています。
これに対し例えば、”(Fed. Cir. 1992)”という表記がされていたら、「連邦巡回区控訴裁判所の1992年の判決」であることを意味します。
CAFC(Court of Appeals for the Federal Circuit)は1982年に創設された特許専門の控訴裁判所です。全国を12の巡回区に分けて事件を扱う巡回控訴裁判所とは異なり、米国全域の特許事件を扱っています。それまでは各裁判所で行われた特許事件の解釈のばらつきをなくし、統一を図るためにプロパテント(特許保護政策)の流れの中で1982年に創設されました。これによりCCPAは廃止されました
では、”D.C.Cir.1990″という表記は何でしょうか?
“United States Court of Appeals for the District of Columbia”(米国控訴裁判所コロンビア特別区の1990年判決)という意味です。つまり、CAFCではないコロンビア特別区巡回控訴裁判所の判決です。全国を11の巡回区+D.C. 巡回区に分けて事件を管轄しています。”D.C. Cir.”は名称はコロンビア特別区といいますが、ワシントン及びコロンビア特別領を含んだ地域を管轄しています。
この他、地方裁判所の判決集であるF. Supp(Federal Supplement)、最高裁判所の判決集であるS. Ct.(Supreme Court Reporter)も根拠とされることがあります。

出願時の提出書類の記載

(1)明細書

米国特許明細書の構成をみてみましょう。明細書はどのような項目から成り立っているのでしょうか?
例えば、話題となったゴルフのパッティング方法の特許明細書を紹介します。

米国特許第5616089号

Title:Method of Putting(パッティング方法)
Field of the Invention(技術分野)

“The invention relates to the game of golf, and in particular to a method of putting”.
・・・

「本発明は、ゴルフのゲーム、特にパッティング方法に関する。」という書き出しで、この発明の技術分野を記載します。

Background of the Invention(発明の背景)

“Many golfers would like to improve their putting. When a golfer uses a conventional putting method, the golfer grips the putter with one hand above or below the other hand. The golfer then addresses the ball and strokes the ball towards the hole. Using a conventional grip, a golfer’s non-dominant hand leads the putting stroke, and this can cause inconsistency, especially among intermediate or older golfers”.
・・・

「多くのゴルファーは、自分のパッティングを改良したいと考えている。ゴルファーは、従来のパッティング方法を利用する際に、他方の手の上部又は下部にある一方の手でパターを握る。ゴルファーはボールにアドレスし、ホールに向かってボールを打つ。従来のグリップを使用することにより、ゴルファーの非利き手はパッティングストロークを導き、これにより、特に中級あるいはそれより長いゴルファーの間ではばらつきが生じている。」

SUMMARY OF THE INVENTION(発明の概要)

“The invention is a putting method in which the golfer controls the speed of the putt and the direction of the putt primarily with the golfer’s dominant throwing hand, yet uses the golfer’s non-dominant hand to maintain the blade of the putter stable”.
・・・

「本発明は、ゴルファーが最初に利き投げ手でパットの速度及びパットの方向をコントロールする、パッティング方法であるが、ゴルファーの非利き手を使って、パターのブレードを安定に保つ。」

BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS(図面の簡単な説明)

“FIG. 1 is a schematic drawing illustrating a golfer using a putting grip in accordance with the invention”.

「図1は、本発明にかかるパッティンググリップを使ったゴルファーを記述した概略図である。」

解説

このように添付されている図面をFig. 1, Fig. 2〜がどのような図面であるか説明していきます。既に説明したように、schematic drawing(概略図)の他、perspective view(斜視図)、flow chart(フローチャート)、block diagram(ブロック図)、front view(正面図)、sectional view(断面図)などがあります。
断面図の表現は例えば以下の通りです。米国特許第7407047号
“As shown in FIG. 10, which is a cross-sectional view along AA in FIG. 9, … “(図9のA-A線に沿った断面図である図10に図示するように … “とあります。つまり、図9に”A-A線”を付し、この線にそって切った場合の断面図を図10として示しています。断面図は通常、このように表現されます。

Embodiment(実施形態)

“FIG. 1 shows a golfer 10 gripping a putter 12 and addressing a golf ball 14 in accordance with the invention. In FIG. 1, the golfer 10 is addressing a golf ball 14 located in the middle of the golfer’s stance in preparation of putting the ball 14. In carrying out the invention, it is not necessary that the golfer 10 address the ball 14 in the middle of the golfer’s stance, and many golfers may prefer to putt off the inside of the front foot 16. The golfer 10 in FIG. 1 is putting right handed. On the other hand, a golfer can carry out the invention left-handed by switching the orientation of the grip. For the purposes of this detailed description of the preferred embodiment of the invention, it should be assumed that the golfer’s 10 right hand 20 is the golfer’s dominant throwing hand”.

「図1は、パター12を握り、本発明に従いゴルフボール14にアドレスするゴルファー10を示している。図1においては、ゴルファー10は、ボール14のパッティングに備えるゴルファーのスタンスの真ん中に配置されたゴルフボール14にアドレスしている。本発明を実施する際には、ゴルファー10がゴルファーのスタンスの真ん中にあるボール14にアドレスする要はなく、多くのゴルファーは、前脚16の内側から離れたところにあることをむしろ好む場合がある。図1のゴルファー10は、右方向にパッティングしている。他方、ゴルファーは、グリップの方向を切り替えることにより、左方向に本発明を実施することができる。本発明の好ましい実施形態の詳細な説明の目的で、ゴルファー10の右手20は、ゴルファーの利き投げ手であると推定されるはずである。」

解説

実施例では、”golfer 10″, “putter 12″のように部材や対象に図面中で付けられている符号を添えて説明します。クレームや明細書の実施形態以外の部分で符号を添えることもありますが、通常の場合は、実施例で初めて符号がでてきます。

今週のポイント

  1. 米国特許実務で根拠となる法令には、35USC(米国特許法)、37CFR(米国特許法規則)、MPEP(米国特許審査基準)等があり、BPAI(特許審判抵触部)の審決、CCPA(米国関税特許控訴裁判所)、CAFC(連邦巡回区控訴裁判所)、巡回控訴裁判所等の判決も根拠とされる。
  2. 明細書は、当業者が発明を実施できるように明確、簡潔に記載されるべきであり、出願人が考え得る最良実施形態(ベストモード)を記載することが米国特許法112条、37CFR 1.71に定められている。
  3. 37CFR 1.52(b)(1)(ii)には、出願その他の手続は”Be in the English language”と規定されているが、イギリス英語の綴りであるという理由で拒絶されることはない。
  4. 明細書は、Field of the Invention(技術分野)、Background of the Invention(発明の背景)、SUMMARY OF THE INVENTION(発明の概要)、BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS(図面の簡単な説明)、Embodiment(実施形態)の項目から成り立っている。
  5. 断面図は、例えば” FIG. 1 is a cross-sectional view along AA in FIG. 2″(図1は、図2のA-A線に沿った断面図)のように表現する。

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