第72回 算数? 数学?

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「算数(산수)」といえば,私たちは普通,足し算(덧셈)・引き算(뺄셈)のような簡単な計算のみを意味すると思っています。そして「数学(수학)」と言うと,何か高次元的な学問の世界という概念が強いですね。

日本の辞書(新明解・ウェブ辞典)では,その意味を次のように説明しています。

  • 算数:小学校の教科の一つで,数の計算や簡単な図形の性質など,初等数学を学ぶ分野。
  • 数学:数・量・図形・函数などの性質や相互の関連およびそれらの間に成立する法則を研究する学問〔得られた結果の全体を論理的体系にまとめる努力が行われる。扱う対象により,代数・幾何・解析の三大部門に分かれる〕。

日本では昔,「算術」といっていたものが「算数」に言い換えられました。しかし,韓国の小学校では,1995年に산수〈算數〉と言っていたものを수학〈數學〉というように名称が改められたというのです。「数学」という大きな枠の中に,詳細的な概念の「算数」があるので,包括的な意味で「数学」と呼ぶのが合理的だというのがその理由だそうです。

小学校で「算数」と言っていたものが,中学に入って急に名称が「数学」になると,何か難しいことを学ぶようになると思い拒否反応を示す子どもたちが多いので,それならば早いうちから免疫を作っておこうと最初から「数学」という言葉を取り入れたそうです。

数学は,おそらく世界中の学生たちが嫌がる科目でしょう。韓国では教育に携わるえらいお方が,名称を変えることによって,うまく生徒たちのマインドコントロールができると考えたのだと思います。生徒に「中学校へ行っても,自分が小学校で学んだ科目の延長線上にあることを勉強するだけなのだ」と思わせれば,心理的な負担を減らすことができると考えたのでしょう。

しかし,ここでちょっと考えてみましょう。果たして小学校で学ぶものを「数学」と言っていいのでしょうか。日本人の一般的な認識としては,小学校で扱うものが「算数」で,中学校で扱うものが「数学」ですが,掘り下げて考えると「算数」と「数学」の違いは単に小学校で学ぶか,中学で学ぶかの違いではないのです。

  1. 算数は計算の正確性が求められ,数学では論理の正確性が求められる。
  2. 数学は算数の延長線上にはないので,勉強の仕方も違う。
  3. 数学は解法を丸暗記するのではなく,なぜそうなるのかを理解する。
  4. 算数は,具体的な世界の話だが,数学は負の数(マイナス)を使ったり,平方根(ルート)を使ったりして抽象的な世界の話を扱ったりする。

こう考えると,小学校で勉強する科目を수학と言うのは,やはりちょっと無理があるのではないかと思います。韓国の小学校で수학と言う名称を使い始めたのは1995年からだと言いますから,比較的最近のことですが,おそらく日本ではこのような理論は通らないでしょう。

さて,もう少し時間をとって,今度はこの問題を言語学的な観点から見てみましょう。事実, 韓国でも산수〈算數〉という用語を수학〈數學〉に変える時,「小学校で学ぶものをどうして数学と呼ぶのか」という議論が巻き起こりました。長年산수と言ってきたものを,急に수학と,言い方を変えたためのぎこちなさのせいもあるでしょう。

しかし, ぎこちなさを感じるのは言語習慣の「慣れ」のためです。人間の意識というものは恐ろしいもので,なかなか固定概念から脱することができません。「数学」がいいのか,「算数」がいいのかという議論は,このような観点からも考察しなければなりません。

長年にわたって使い慣れた言葉を換えると言うことは,実は大変なことなのです。ひょっとすると進歩的な韓国人はこの壁をうまく乗り越えて「数学」という言葉を選択しましたが,保守的な日本人は,いまだ「算数」にこだわっているのかも知れません。

卑近な例を挙げますと,日本でも「看護婦」の名称を「看護師」に変えるときに,最初は違和感があったと思います。しかし今では平気でこの言葉を使っています。「痴呆症」を語感がよくないというので「認知症」に変えたりもしました。「山手(やまて)線」の呼称を「やまのて」線に変えたときも違和感がありましたが,今では誰も変に思いません。

ただ,うまく定着しなかった例もあります。国鉄が民営化されるときに変更された「国電」→「E電」などは,結局はなじまずに,いつの間にか消えてしまいました。

韓国では近年になって,またまた差別用語的な意味合いを持つ「医学用語」をいくつか変えようという動きが出てきました。そのうちの一つが정신분열병です。この病気は日本でも「精神分裂病」という名称が誤解を招くと言うことで「統合失調症」に変わったいきさつがありますが,韓国では日本での名称を嫌い,独自に조현병という名前をつけました。この조현というのは「弦楽器を調律する」という意味で,その調律がうまくいかない病気だというわけです。

そしてもう一つは간질です。日本では「てんかん」と言われている病気ですが,こちらは뇌전증,漢字で表記すると「脳電症」です。イメージはわからないでもないですが,この新語が果たして一般的に定着する華道家は未知数です。

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