第9回 ムッチマ旅行

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覚えても覚えても,どんどん新しい言葉が生まれます。言葉の勉強は際限がありませんね。今からご紹介する単語もしかりです。

2000年代中頃の韓国の新聞には,묻지마 범죄という新語が頻繁に出てきます。묻지마 범죄というのは,不特定の人を狙った無分別・無差別な犯罪,つまり「通り魔的犯罪」のことです。

2003年2月に発生した大邱の地下鉄火災事件は묻지마 범죄の一つと見ることができます。これと前後して,ソウルの地下鉄の駅で電車を待っていた母子が,ホームレスに突き落とされて,電車に轢かれて死ぬという事件などが起きました。

地下鉄4号線の三角地(삼각지)駅のホームドア

地下鉄4号線の三角地(삼각지)駅のホームドア

そしてこの事件をきっかけに韓国の地下鉄にはホームドアが設置されることになりました。日本と違い,計画から設置までの時間はあっという間でした。今ではほとんどの駅にホームドアが設置されています。ちなみに韓国ではこのホームドアのことを스크린도어といっています。ホームドアという語はいかにも和製英語の響きですから,あえて使いたくなかったのでしょう(英語ではPlatform Screen Doors)。

さて話を묻지 마に戻します。この묻지 마というのは「聞くな」という意味です。

犯罪を起こしたその「理由を聞くな」ということから,「通り魔事件」「無差別殺人」と言う意味で使われるようになりました。社会が複雑化すればするほど,自身の中の問題を外部の対象に投射して衝動的に感情を噴出させるこの手の犯罪が増えていきます。

韓国では放火の件数がこの10年間で,2倍を超える速さで増加していると言います。みなさんもまだ記憶に残っていると思いますが,2008年2月には,南大門(남대문)の通称で一般に知られるソウルの崇礼門(숭례문)が放火により焼失しました。この事件も,一種の묻지마 범죄の一つと見られています。

日本では同じころ(2008年),秋葉原の通り魔事件が起こりました。当時の韓国の新聞の見出しにはこのように出ています。新聞の見出しですので,묻지마 칼부림と名詞形になっています。

도쿄 도심‘묻지마 칼부림’행인 7명 참변(東亜日報)
(東京都心「無差別な刃物の振り回し」通行人7名惨殺)

도쿄서 ‘묻지마 칼부림’ 7명 사망 朝鮮日報
(東京で「無差別な刃物の振り回し」7名死亡)

さて,この묻지 마ですが,最近の新語辞書には,묻지마 관광,묻지마 여행という語が載っています。これは,インターネットの発達とともに2000年代の半ばあたりから増え始めた「ミステリー・ツアー」のようなものです。

ミステリー・ツアーというと聞こえがいいのですが,実態は,だれが一緒になるか,どこへ行くのかもわからない中年男女の「出会い系旅行」です。出会い系というと,日本では若い人たちの特権のようですが,韓国では,中年男女の間でこの主の「不倫旅行」が横行しているようです。

「その関係を聞かないで」という意味のこの묻지마 여행ですが,当局の取り締まりが厳しく一時下火になっていたものが,また最近になって手を替え品を替えてネット上で旅行会員を募集しているようです。

“묻지 마,묻지 마!”

いままで,“어디 사세요?”,“아파트는 몇평이에요?”,“결혼 하셨어요?”…とうるさいぐらいにあれこれと根ほり葉ほり聞いてきた韓国人が,住んでいるところも,名前も,職業も聞かずに旅行に出かけるとは…。韓国の社会も急に大人になってきた証拠なんでしょうかね。

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