第1巻 台湾コミック・ラノベの光と影

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“海賊版”ではなく“正規版”で勝負

『魔法先生ネギま!』中国語版(C)Ken Akamatsu, Tongli Publishing Co., Ltd., 2011

『魔法先生ネギま!』中国語版(C)Ken Akamatsu, Tongli Publishing Co., Ltd., 2011

松元
Wikipediaに“manga”という項目があるくらい、日本のサブカルチャーの世界進出には目をみはるものがあります。今回は、台湾でコミック翻訳の現場の最前線で活躍する“柳生十兵衛”さんに、台湾でのコミックやライトノベルの出版事情について、うかがおうと思います。
柳生
日本のサブカルチャーが広く世界中で受け入れられている様子を、日本の皆さんもインターネットを通してよくご存知だと思います。ところで、世界の中で、日本のマンガやライトノベルをいち早く取り込んだのは、どこだと思いますか?
松元
うーん…、アメリカかなあ。
柳生
台湾なんですよ。台湾は昔から、日本のサブカルチャーにとても敏感でした。何か日本で流行すると、すぐに台湾でもブームになります。台湾はずっと日本に対して友好的でしたよね。日本のサブカルチャーを自然に受け入れやすい風土というか、国民性だったんでしょう。
松元
「流行する」といっても、台湾のマニアはみんな日本語の「原書」を読むわけではないですよね。
柳生
もちろんそうです。台湾の出版社からたくさんの翻訳本が出版されています。
松元
日本のコミックが台湾に進出したのは、いつごろですか?
柳生
そうですね。30年ぐらい前でしょうか。しかし、当時台湾で出版されていた日本のコミックは、全て無許可で翻訳したものばかりでした。
松元
いわゆる「海賊版」ですね。
柳生
それから数年後、この事態を重く見た日本の各出版社が、正式に版権を取得するようにと台湾の出版社へ要請したんです。台湾の各出版社がこれに応じて、両国の出版社の間で版権交渉が始まりました。やがて台湾でも、きんとした「正規版」が出されるようになりました。
松元
現在、日本のコミックを手がける出版社は、どのぐらいあるんですか?
柳生
倒産した出版社や日本のコミックの出版事業から撤退した出版社もあるんですが、2011年現在、台湾でコミックの出版事業を手がけている出版社は東立出版社、台湾角川書店、尖端出版社、青文出版社、長鴻出版社と台湾東販出版社の6社です。台湾角川書店と台湾東販出版社以外の4社は、全て純粋な台湾企業です。
松元
日本ではコミックのほか、ライトノベルもブームになっていますよ。
柳生
2003年、台湾角川書店が初めて台湾で翻訳版のライトノベルを出しました。これを皮切りに、長鴻出版社を除く各社が翻訳版ライトノベルにのりだしてきました。台湾で出版される日本のライトノベルの作品数は、現在も着々と伸びていますよ。
松元
コミックにしてもライトノベルにしても、日本でヒットが出ると、その出版社には台湾からドドドッと版権交渉のオファーが来るわけですね。台湾の出版社は、ベストセラーを出す確率が高いのはどの出版社か、戦線恐々と眺めているわけですか。
柳生
1つの出版社が、ある日本の出版社の版権を独占する、ということはないんです。版権は作品ごとの契約なんですよ。日本で大人気の作品の版権を取れるかどうかは、全て各社の努力にかかります。今回、台湾のA社が日本のB社の作品の版権を獲得したからといって、今後、日本のB社の作品版権がすべて台湾のA社に授与されるとはかぎらないんですね。たとえ同じ作者の作品であってもです。
松元
売れる作家の1作品をおさえただけでは安穏としていられないんですね。
柳生
唯一例外なのは台湾角川書店です。台湾角川書店は日本の角川書店株式会社傘下の会社ですので、同社やそのグループ傘下の出版社が出したコミックやライトノベルは、優先的に台湾角川書店へ版権の授与が行われます。ですから、「涼宮ハルヒ」シリーズや「らき☆すた」「よつばと!」「狼と香辛料」なんかは、ほとんどが台湾角川書店が出版しています。
松元
いずれにしても、台湾におけるや出版の現在の市場は、以前と違って非常に健全だというわけですね。「健全な市場にこそ健全な競争が宿る」です。はははは(笑)。
柳生
あのですね…。
松元
なんですか? 声が小さいですよ。
柳生
実は、海賊版も引き続き流通しているんですよね。
松元
ほー、それは?
柳生
いわゆる「エロ漫画」や「エロ小説」ってやつなんですね。アダルト作品は日本では発行が認められていますが、台湾の現在の法律では、「わいせつ物」と見なされているので、台湾の出版社が版権を取得して「正規版」として出版することはできないんです。
松元
ははー、そのあたりのお話は機会を改めて(笑)。

出版不況の中で

松元
日本ではここ数年、「出版不況」などという言葉がささやかれているんですよ。口の悪い人は「出版は斜陽産業」などといいます。うちの社内では「いまに見てろ!」と、いろいろとたくらんでいるんですけどね(笑)。
柳生
台湾の出版業界全体も日本と同じく、衰退傾向にあります。それでも、台湾の中ではコミックやライトノベルが毎月100点前後刊行されます。
松元
日本でも「本が売れない」などと言われながら、実は売れている本はたくさんあるんです。コミックやライトノベルは映画化されたりアニメになったりと好調ですね。
柳生
1つ誤解がないようにお話ししておきたいんですが、台湾のコミックやライトノベル業界は全面的に日本の作品によって支えられているというわけではないんです。さすがに日本の作品と比べれば圧倒的に少数ではあるけれど、韓国や香港、そして台湾の作者による作品も頑張っているんです。
松元
そうですね。日本ブームが始まる前から、台湾にもコミックは定着していましたよね。
柳生
そうです。台湾の漫画家さんが頑張っていたんですよ。でも、日本のコミックが進出してくると、絵もストーリーも日本の作者にはかわなくなってしまいました。読者もどんどん日本の作品に関心が移ってしまって、やがて台湾伝統のコミックは下火になってしまいました。
松元
台湾の国内で育ってきた純国産の文化は、滅んでしまうんですか?
柳生
現在も台湾では、台湾や香港の漫画家による作品が引き続き出版されています。台湾当局は、台湾の漫画家による作品のみを収録したコミック雑誌の創刊に助成金を出して援助をしています。陳某の「三国志群雄伝 火鳳燎原」のように、台湾で絶大な人気を誇るうちに、勢いに乗じて逆に日本へ進出してきた作品もありますから、まだまだわかりませんよ。
松元
そうですね。韓流ブームのように、わが国に「台流」ブームがわき起こるかもしれません。
柳生
台風みたいですね(笑)。勢いがすごそうだ(笑)。

売れているからこそ、大きな損失?

柳生
さきほど、日本では作品が映画になったりして勢いに拍車がかかる、というお話をされましたよね。
松元
「ドラえもん」から「ワンピース」まで! 実写のドラマになる例もありますね。
柳生
台湾と日本を比べたとき、そうしたメディアミックスとしての展開の状況が全然違っているんですよ。日本ではコミックやライトノベル作品がアニメ化、ドラマ化、映画化される場合、出版社や配給会社やスポンサーがお互い緊密に協力体制を敷いて、大々的な宣伝を繰り広げますよね。
松元
テレビはもちろん、雑誌や新聞の紙媒体や、もちろん最近ではインターネットにおいての戦略がすごいですね。
柳生
ところが台湾では、たとえ同一作品であっても、映画の版権は別々の会社が所有していて、協力体制を構築してのプロモーションなどはほとんど行われません。出版社は、せいぜい自社のフリーペーパーや原作の帯で軽く宣伝するだけです。アニメ版やドラマ版がテレビや劇場で放映・公開されるときだって、原作本のコマーシャルなんか流れないんですよ。もちろん、出版社自体がスポンサーになることなどありません。いまも台湾では、日本のアニメがたくさん放送されていますし、劇場版アニメもずいぶん上映されています。それぞれのメディアが協力しあえば、お互いにたいへん有益だと思うんですけどね。
松元
ううん、逆にいうと、現状は大きな損失を生んでいるともいえそうですね。
柳生
台湾でのやライトノベルに関する事情として、もう1つ、「海賊版」の話をしましょう。
松元
いやいや、アダルトについては、またあとでゆっくり(笑)。
柳生
いいえ、そっちではありません(笑)。「ネット翻訳の海賊版」の話です。実はこれは、人気作品になればなるほど深刻で、利益を得る機会の損失は莫大です。インターネットにアップされている海賊版は「正規版よりも早く手に入る」「保存のためのスペースがいらない」「無料」ときています。つまり、コアなファンではない読者にとってはたいへん魅力的で、自然にそちらの方に手が伸びることになります。
松元
人口としては、そのあたりの層が一番多いんですよね…。
柳生
そうなんです。だから出版社は大打撃をこうむるんですよ。ネット海賊版の存在は正規版の売上減少に直接的に響いてきます。ですから、ネット海賊版は各出版社にとって一番の悩みの種なんです。台湾のコミック、ライトノベルの出版社がこうむっている実害は、恐らく版権元の日本の出版社より大きいのではないでしょうか。
松元
ネット海賊版は、取り締まりがなかなか難しいというのが実情なんですよね。
柳生
今のところ、台湾の出版社にできるのは、ネット海賊版に先んじて発売することしかないんです。でも、どんなに急いでも、海賊版のスピードにはかなわないんですね。以前に比べると、出版社のほうもずいぶん早くはなったんですけど。
松元
いろいろと、“目の上のたんこぶ”が存在するんですね。
柳生
その意味ではもう1つ。「貸本屋」というものが、ある意味ではこの業界の発展をはばんでいるといってもいいでしょうね。
松元
日本にも40年ぐらい前はたくさんありました。NHKのドラマ「ゲゲゲの女房」にも出てきましたね。
柳生
台湾の貸本屋の規模はかつての日本以上に大きくて、企業化経営も行われています。台湾の文化社会や人々の日常生活に密着した存在になっているんです。
松元
日本のTSUTAYAとかウェアハウスをイメージすればいいでしょうか。
柳生
台湾ではマニアやコアなファンでもないかぎり、読みたいと思ったら海賊版をダウンロードしたり、貸本屋に足を運んだりしてしまいます。確かに貸本屋もタダではありませんが、買うのよりは安上がりです。ずっと置いておくためのスペースを用意する必要もありません。困ったことに、私の周辺にも貸本屋ですませる友人が結構いるんですよね。
松元
貸本屋は、新しい作品が発売されれば、品揃いの関係上、本を購入するわけですが、一度購入したら、紛失や著しい破損でもないかぎり、それ以上は買いませんよね。読者も貸本屋から借りて読んでしまうばかりで、買うところまでいかない。実売数が頭打ちになるでしょう。
柳生
とはいえ、貸本屋が作品のファンを増やすことに一役買っていることは否めないんですよ。また、本を出せば必ず買ってくれるお得意さんといえなくもない。
松元
難しいところですね。
柳生
さきほど「出版不況」というお話が出ましたね。目下、日本の出版社が続々と電子出版への参入を試みています。台湾の出版業界も、同じように衰退の一途をたどっているという見方もできるような状況にあります。これから各出版社が同じように電子出版事業に参入したり、電子出版事業者と手を組んでいくといった動きが活発になることが予想されます。

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