第142回 視点を換える

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レストランの貼り紙等に使いたいということで、いくつかの言葉を中国語に訳したものについてご相談を受けたことがあります。たとえば「食べ放題!」とか「コーヒーお代わり無料!」とかです。

そのうちの1つにこんな日本語がありました。

「お会計はお席にてお願いいたします。」

この中国語訳はこうなっていました。

「在饭桌边收款。」
zài fàn zhuō biān shōu kuăn

先方のおっしゃるには、この中国語訳は動詞が「收shōu(受け取る)」になっているけどこれでは意味が反対なのでは?というご相談でした。

日本語の「お会計はお席にてお願いします」という表現はやんわりした表現ですが、要するに「お金はテーブルで払ってね」という意味ですよね。だから、当然動詞は「払う」という意味の動詞を使うべきだと思うのに、中国語訳は反対の意味の「收shōu」になっている、これは間違っているのではないか?というのです。

そしてもう1つ、日本語にある「お願いいたします」という丁寧なニュアンスが出ていないのではないかと。つまり「请qĭng(~してください)」を最初につけなければならないのではないか、とのご質問でした。

以上2点の質問は、鋭そうではありますが、実は訳文を表面的にしか見てくれていないようです。訳文を日本語に直訳するとこうなります。

「お席にてお代をいただきます。」

つまり、原文とは視点が違うのです。

原文「お会計はお席にてお願いいたします。」では、「お客様はお席にてお金を払ってくださいね」という言い方。訳文「お席にてお代をいただきます。」は「私どもは、お客様のお席にてお代を頂戴いたします。」という言い方。

原文の方は、お客様の行動(お金を払う)を言っているのに対し、訳文の方は、レストラン側の行動(お金を受け取る)を言っているわけです。

視点が全く逆なのです。

だから、もし先方のご指摘のとおりに訳文の文頭に「请qĭng(~してください)」をつけて「请在饭桌边收款。」と言ったら、「テーブルにてお代を受け取ってください」という意味になります。これではおかしいですよね?だから、この場合「请」をつけてはならないのです。

言葉としては、どちらの視点による表現もありえますが、実際の状況でどちらの視点を採用するのが自然かは、各言語で違うようです。こういうところまで分かっていないと自然な翻訳って出来ないのですね。は~、道は遠し(笑)。

先日、ある中国語の試験の問題を見る必要があって、過去問を眺めていました。その中にこんな文がありました。

房间被打扫得干干净净的。
fáng jiān bèi dă săo de gān gān jìng jìng de
部屋は清潔に掃除されている。

この文、確かに文法的には正しいし、状況によっては言うこともあるかもしれませんが、非常に特殊な状況でなければ出てこないような気がします。ふつうは、こんなふうに言うでしょう。

房间打扫得干干净净的。

そう。中国語って受け身の文はあまり作らないのですね。英語はとても受け身の文が多い印象があります。日本語は英語ほど受け身の文は多くないですが、上記の文「部屋は清潔に掃除されている」は極自然な受け身の文ですよね。でも中国語ではこれはあまり受け身の表現にはしないほうがいいと思います。

では次に、この文はどう思いますか?

雨伞又被我忘在电车上了。
yŭ săn yòu bèi wŏ wàng zài diàn chē shang le
雨傘はまたわたしによって電車の中に忘れられた。

これ、日本語訳は、ありえない日本語というか、、、中学の英語のテキストに出てくる受動態の文を日本語に訳したみたいですよね(笑)。ふつうの会話では「わたしはまた雨傘を電車の中に忘れた。」と言うでしょう。

ところが中国語としては、これはOKなのだそうです。もちろん

我又把雨伞忘在电车上了。
wŏ yòu bă yŭ săn wàng zài diàn chē shang le
わたしはまた雨傘を電車の中に忘れた。

と言ってもいいのですが、受け身の文にしてもいいのだそうです。理由は、被害をこうむっているから。つまり、中国語の受け身の文は、何か「被害」というニュアンスがないと成立しにくいようですね。「房间被打扫得干干净净的。」が成立しにくいのは、部屋が掃除されたところで誰も被害を受けないからなのでしょう。

このように、同じことを言おうとしても、日本語の視点と中国語の視点って結構違うこともあるわけです。色々なところに視点の違いを見ることができると思うので、皆さんも色々探してみてください。そして僕にも教えてくださいね。

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