第175回 上海普通話

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先日、ある企業で教えさせていただいている生徒さんたちと、実践会話練習(という名の飲み会…笑)で、近くの中華料理屋さんに行きました。

ここの店員のおばさん、日本語はとても上手ですが、中国語は少しだけなまっています。要するに、巻舌音(そり舌音)が少し弱くて、名前を尋ねた時、彼女はこんなふうに言いました。

我姓zāng。

僕は、もうこういう発音には慣れているので、「ああこの人は『张zhāng』という苗字なんだろうな(あるいは『章zhāng』か)」と思えるのですが、CDなどでアナウンサーの美しい中国語しか聴いたことのない生徒さんたちには、少しの違いで分からなくなります。

その場にいたある人が、この店員を中国語でなじりました。「あんたの名前、zāngなの?zhāngじゃないの?普通话(中国の標準語)で言ってよ。(笑)」

こう言っても相手はひるみません。自分のなまった発音をゴリ押ししてきます。紙に自分の名前を書いてくれましたが、やはり「张」と書いていました。つまり、明らかに彼女の発音が南方風だったのですよね。話を聞くと上海の近郊の出身のようでした。

で、僕たちの発音を指して彼女は「あんたたちのは普通话じゃないの。それは北京话でしょ。私たちのは、上海の普通话よ!」

すごい論理構造ですよね(笑)。

つまり、彼女は、ふだんは上海語に近い言葉を話しているけど、他の地方の人とか外国人と話す時は「普通话pŭ tōng huà(標準語)」を話すわけです。でも、その発音は上海語に少し引きずられて、一部なまってしまうわけですね。

でも、ふだん話す上海語とはかなり違う言葉なので、彼女たちは「自分たちは普通话をしゃべっている」という意識が強いわけです。

だから「普通话を話せ!」と言われるとカチンと来るのでしょうね。で、挙句の果てに「これは上海の普通话だ!」ということを言ってしまうのです。

実は同じようなことが以前仕事上でもありました。中国語会話カレンダーを作りたいという会社から依頼を受けて、日めくりカレンダーに簡単な中国語のフレーズを1日1つずつ書いておき、1日1つずつ覚えてもらおうというものでした。

で、初心者向けなのでカタカナ発音を書いてほしいと言われました。僕は、中国語の発音をカタカナで書くのはイヤなのですが、まぁ仕方ないと思って書きました。

ところがなぜか、それをクライアントさんが、自分たちの会社にいる中国人に見せてカタカナ発音を直させたというのです(だったら最初からその中国人にカタカナ表記を書かせればいいのに〜…笑)。中国語はカタカナで発音表記できるものではありませんから、どう書いても正解はありません。ですから多少直されても別に気にしないのですが、直されたものを拝見すると、どうもこれは中国の南方出身の人が直したなと思える状態になっていたのです。

つまり、「是shì」を僕は「シー」と書いていたのですが、「スー」と直されていました。また「学生xué sheng」を僕は「シュエション」と書きましたが、「シュエセン」と直されていました。

巻舌音(zh / ch / sh)が舌歯音(z / c / s)のようになってしまったり、-engの発音を「エン」のように発音するのは、南の方の人の特徴です。ですから、「これは南方風の発音に書き換えられているので承服できない」と回答したところ、直接伊藤と相手の中国人とで話し合ってくれと言われました。

メールでやり取りしたのですが、結局平行線で、最終的には彼女から「私のは上海風の普通话です。これで行きます。」と言われたのです。これで市場に出回って僕の名前が出ているのは非常に不本意だったので、僕は、伊藤の名前を出さないように出版社に頼みました。

頑固ですよね〜お互い(笑)。

でも、最近ちょっと相手の言うことも分かるかな〜と思えてきました。だって、世界の華僑社会まで入れると、十何億という人がそれぞれの地方の中国語で話しているわけです。一応標準語も理解できる人がほとんどなわけですが、これだけ多くの人がみんな奇麗な標準語を話せるわけがありませんし、中華人民共和国の標準語だけが中国語かというと、そうではありませんよね。台湾の中国語もあるし、華僑たちの話す中国語も、よく聞くと標準語ですが、中国の中央電視台のアナウンサーの話す中国語とは発音が結構違いますし語彙も少し違っているようです。シンガポールの華僑が、どうして北京の言葉に合わさないといけないんだ!と思うのも道理です。上海の人だってそうですよね。彼らは上海語という言葉があるけど、他の地域の人と話すためにワザワザ標準語を話してあげている、という意識なのだろうと思います。どうして北京の言葉に合わさないといけないのか!北京の発音なんて、あんななまった発音真似できるか!と思っていてもおかしくないですよね〜。

丁度、「大阪の言葉の方が歴史的に見ると標準やねんで」と理屈をこねる関西人のようなものですね(伊藤は関西人です…笑)。

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