第120回 ズレ2

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日本人と中国人は顔つきも髪の色も瞳の色も非常に似ているのですが、価値観とか考え方は全く違います。

それは言葉にも表れていますね。日本語と中国語、いずれも漢字を使いますから、ついつい「外国語だ」という意識が薄く、そのために足をすくわれることも少なくありません。

有名な笑い話に「湯」がありますよね。このメルマガでもご紹介したことがあると思います。日本に来たばかりの中国人が街を歩いていると「湯」と書かれた暖簾の出ている店があり、「スープ屋だ」と思い込んでスープを買いに入った、という話です。

「湯」は日本語では「熱い水」のことですが、中国語では「スープ」の意味なのです。だからこういう笑い話が生まれてしまうのですね。

今日は、もう少し踏み込んで、こういう日中間の「ズレ」を見てみたいと思います。

住む

日本語の「住む」は、「(ある程度の期間)定住する」ようなイメージがあると思います。でも中国語ではホテルに数日(1日でも)宿泊することも「住zhù」と言います。これだけでも結構意味の「ズレ」を感じます。しかし、「住む」という日本語の動詞と「住zhù」という中国語の動詞は、実はもっと守備範囲がずれているのです。

刑事が犯人を追いかけている時に「止まれ!」と言いますが、これは中国語では「站住!」と言います。この「站住」という言葉にも「住」という字がついていますね。

この「住」は結果補語として使われているのですが、意味は「留まる」という意味です。「站(止まる)」した結果「住(留まる)」しろ!という意味ですね。

つまり、「住」という字の原義は「住む」という意味ではなく「留まる」という意味なのです。そこから「住む」という意味にもなり、「(一時的に)泊まる」という意味にもなります。

この単語はこんな時にも使います。↓

「黙れ!」と言う時、中国語でなんと言うといいでしょうか。映画やドラマを見ていると、よくこんなふうに言っています

住嘴!

zhù zuĭ

(住口!zhù kŏu とも言う)

「嘴zuĭ」とは「口(クチ)」のことですね。ですから「住嘴」とは「口を止めろ!」という意味です。これは「住zhù」が「住む」という意味だと思っていると、全く意味が分からないと思います。

立つ

「立つ」って、中国語では何というでしょうか。そう、「站zhàn」ですね。

「站」という字は日本ではあまり見かけませんねぇ。ですからよく生徒さんから「この字は日本の漢字でいうと、どの漢字なのですか?」という質問をよく受けるのですが、この字は日本でも「站」と書きます。最近は使いませんが、60年ほど前まではよく「兵站」という言葉で使われていました。(40そこそこの伊藤がなぜ知っているのか、という突っ込みは却下…苦笑)

兵站というのは、「作戦軍のために、後方にあって車両・軍需品の前送・補給・修理、後方連絡線の確保などに任ずる機関。」(広辞苑)だそうです。つまり、車両や軍需品を一時とどめおく場所、というわけです。

そういうイメージを持って見てみると、「駅」と似ていますね。列車の駅は、列車がやってきて一時とどまって去って行きます。つまり、何かが移動してきて、その場所で一時留まって、その後別のところに行く、いわば「中継点」のようなところを「站」というのです。

例:

「火车站 huŏ chē zhàn」…列車の駅

「加油站 jiā yóu zhàn」…ガソリンスタンド

さて、こういうイメージを表す漢字「站zhàn」が、なぜ「立つ」という意味になるのでしょう。不思議ですね。

実は「站zhàn」の原義は「立つ」というより「立ち止まる」というイメージです。「立つ」という行為より「止まる」の意味の方が強いのです。

例えば、犯人を追いかける刑事が叫ぶ言葉は、上でも書いたように「站住!zhàn zhù」ですね。ここの「站」は、「立つ」ではなく「止まる」という意味です。歩いたり走ったりしている状態のモノが動きを止めると、立っている状態になりますよね?だから「站」という字は「立つ」という意味にもなるのです。

日本語の「立つ」という動詞の表す行為は、座っている状態のものが「立ち上がる」ことを表しますね。中国語の「站」という動詞とは概念がかなりずれています。もし中国語で「立ち上がる」という意味を表したいのであれば、「站起来zhàn qi lai」というように方向を表す言葉(方向補語)を付加しなければなりません。

つまり、「立つ」と「站(立ち止まる)」は別の概念を表す言葉なのですが、似た状況で使うことがあるので(「立つ(立ち上がる)」を「站起来」と言うように)、同じ意味のように思われているだけなのです。

外国語の単語を覚える時は、表面的に覚えるよりも、言葉の原義を覚えてから、イメージを膨らませたほうが、何かと面白く、しかも誤解なく覚えられるので、一石二鳥だと思います。皆さんも色々研究してみてください。

色々発見がありますし、日本語を見直す機会にもなりますよ。

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