第82回 主語

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

僕は電車に乗っているとき、よく吊り広告を眺めています。
週刊誌の広告や、英会話学校の広告、大学の広告、色々あって飽きません。でもあんまり熱心に見ていると、その広告の近くにいる人から不審者のように思われて睨まれたりするので、気をつけなければいけませんが(笑)。

さて、そういった広告の中で僕が特に楽しみにしているのは、某大手学習塾の広告です。いつも、実際に出た中学の入試問題を載せているからです。

中学入試ということは、小学6年生を対象とした問題なのですが、なかなか難しいものも結構ありますね。特に算数は、電車の中で見ているだけでは解けないな〜と思うものもあります。

最近電車の中で見た問題は、国語の文法に関するものでした。文章を見て、色々思うところがあったので、ちょっとその文章をご紹介します。

「日本は気候が穏やかだ」という文の主語は「気候」と考えられます。

「おだやか」なのは「気候」であって「日本」ではないからです。

「お金は持っていない」という文の場合はもっとはっきりしていて、「お金」は主語ではありえません。

こうしたことから、「は」という語は、主語を示すのではなく、何が話題になっているかを特に取り上げて示す語だと考えられます。
(2008年国府台女子学院中入試問題より)

日本語の「は」という助詞と「が」という助詞についての説明文ですね。どちらも「主語を示す」と思いがちですが、「は」は主語を示すとは限らない、ということを説明したものです。

なるほど、「日本は気候が穏やかだ」という文の場合、「日本」は主語ではないのですね。確かに、「日本は穏やかだ」というと、ちょっと意味が違ってきてしまいますから、この文の場合「日本は」と「穏やかだ」は、直接は繋がっていません。

中国語だとこの文はどう言うでしょうか。日本語とそっくりですよね。

日本气候很温暖。
rì běn qì hòu hěn wēn nuăn

日本語の「は」と「が」を抜いただけという感じで、非常に文構造が似ています。というより、文構造が全く同じだと言っても過言ではありません。

しかし中国語学では、この文の主語は「日本」と解釈します。

中国語ではこういう文を「主述述語文(主謂謂語句)」と言います。つまり「主語+述語」の構造が文全体の述語になっている文、という意味です。

つまり、上の文で言うと、文全体の主語は「日本」で、文全体の述語は「气候很温暖」。そしてその述語部分の「气候很温暖」も主語(气候)+述語(很温暖)の構造になっている、ということです。

日本語の方の解釈では、「日本は」の部分は話題を提示しているだけだ、ということで、主語とは認めていないわけですが、中国語の方は「日本」がこの文全体の主語と言われいています。でも日本語も中国語も文の意味は同じ。構造もそっくりに見える。さて、これはどういうことでしょう。

実は、中国語では、「主語とは話題を示すもの」なのです。日本語の「主語」とは、概念が全く違うのです。

中国語の主語は、必ずしも動詞や形容詞に対応しているとは限りません。たとえば:

苹果吃了没有?
píng guŏ chī le méi yŏu
リンゴは食べた?

「吃(食べる)」という動作を行うのは、この場合は聞き手(あなた)であって、リンゴではありませんね。でもこの文の主語は、中国語としては「苹果」です。この文は話し手がリンゴのことを尋ねたくて発しているわけです。たとえば「(キュウリは食べたみたいだけど)リンゴはちゃんと食べたの?」というようなニュアンスで発せられる文ですよね?その時話題にしたい言葉を、主語として動詞の前に持っていくことができるわけです。

しかし、ここまでは日本語と文構造が同じなので、日本人にとっては難しくありません。別に、どれが主語か、なんて分かっていなくても日本人にとっては理解しやすいと思うのですが、次の文では注意が必要です。

有麻婆豆腐吗?
yŏu má pó dòu fu ma
麻婆豆腐はありますか?

日本語の文の主語は「麻婆豆腐」ですから、つい中国語でも「麻婆豆腐」という言葉を主語に据えたくなりますよね?実際多くの日本人が「麻婆豆腐有吗?」と言ってしまうのをよく聞きますし、僕自身も経験があります(文法的に間違っているわけではありませんが、普通の語順ではありません)。

しかし、「有」を使う文では、「存在するモノ」は「有」の後に置くのが基本です。「有」の前に置かれるもの(つまり主語として扱われるもの、あるいはその時話題にしたいもの)は、「モノが存在する場所」です。たとえば:

上海有地铁吗?
shàng hăi yŏu dì tiě ma
上海には地下鉄がありますか?

以上からお分かりの通り、中国語と日本語では「主語」というものに対する概念が全く違うと言っていいと思います。
これが分かると、今まで不思議だった中国語の語順がすっきりしてくるかもしれませんね。

中国語翻訳のお問い合わせはインターブックスにどうぞ

それぞれの国の事情を理解したネイティブ翻訳者が翻訳を担当いたします。
台湾語をはじめ北京語、広東語、上海語などの方言や簡体字、繁体字などにも対応しています。
電話番号 03-5212-4652
お問合せはこちら

関連する記事