第80回 神の視点

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先日中国語の授業で「离 lí」という前置詞が出てきました。

この前置詞は説明がしにくいんですよねぇ。辞書を見ると、こんなふうに書いてあります。

「…から、…まで」

は?「から」と「まで」じゃ正反対じゃん!と思ってしまいますよね(笑)。

でもまぁ、その通りなんですよねぇ。これは、中国語と日本語の視点の違いですね。

「离」は、2つの地点の隔たりを示す前置詞です。たとえばA地点とB地点があるとしましょう。日本語で「AからBまで」というとAが出発点でBが到達点。つまりA→Bという方向性が生まれてしまいます。それは中国語では「从A到B」と言うわけですね。

「离」には、別に方向性は無いのです。そうではなくて、隔たりです。

A地点とB地点の間が遠いかどうかとか、どのくらいの距離があるかとか、そういうことを言う時によく使いますね。その場合は、別にどこからどこへという方向性は無いです。たとえば:

北京离天津有多远?
běi jīng lí tiān jīn yŏu duō yuăn

これをできるだけ方向性のないように訳すと「北京と天津はどのくらい離れていますか?」という感じでしょうか。

つまり、2つの地点の内の一方を主語に据え、もう一方を「離」の後に据えるわけですね。そういう文法面を重視して訳すと「北京は天津からどのくらい離れていますか?」となるわけですね。この場合に「离」は「〜から」という訳語が与えられるわけです。

では、我々のいる場所と天津との間の距離を尋ねたいと思った場合どう言うでしょう。まず中国語だと:

这里离天津有多远?
zhè li lí tiān jīn yŏu duō yuăn

これを日本語に訳すと、「ここから天津までどのくらいありますか?」と言うのが自然なのではないかと思います。この場合「離」の訳語として「まで」が使われています。

つまり、日本語ってどうしても出発点と到達点を決めなければ気がすまないってことなのでしょう。だからどうしても「から」とか「まで」を使ってしまうのですね。

でも、面白いことに、「ここ」と「天津」を入れ替えても、それほど意味は変わりません。(cf.天津からここまでどのくらいありますか?)これはつまり、こういう隔たりを表す場合は、2つの地点は並列の関係にあるということですね。ただ、日本語ではどうしても「から」とか「まで」を使わざるを得ないので、あたかも方向性があるかのように見えているだけです。

一方、中国語の「离」を使う文は、A地点とB地点のどちらが出発点でどちらが到達点かということは全く問題にしません。

2つの地点で「离」をはさむだけでいいわけで、どちらを前に出すかというのは、どちらを話題にしているかということで決まるだけです。実質的には、どちらを前に出しても構わないのです。つまり:

北京离天津远不远?≒天津离北京远不远?

だったらいっそ「离」も、前置詞ではなく、「和hé」や「或huò」等と同じ「並列の接続詞」としてもいいくらいですね〜(笑)。

方向性を問題にしないのだ、ということに思い至った時、ふと別の例を思い出しました。以前、本メルマガでもご紹介したことがありますが、ずっと以前の話題なので、もう一度お話しますね。

僕が大学2年生の時だったと思いますが、ある中国人の先生の授業でペーパーテストを受けさせられました。その中に「これらの単語の対義語を書きなさい」というような問題があり、挙がっている単語の中に「借jiè」という動詞が出てきたのです。

僕は「中国語では『借りる』も『貸す』も同じ『借jiè』という動詞を使う」というのをどこかで聞いたことがあったので、自信満々に「借」という字を解答欄に記入しました。

ところが、これが不正解。クラスの誰一人としてこの問題に正しい答えを書いた人はいませんでした。

なんと、答えは「还huán」!!そう、「借りる/貸す」の反対は「返す」だったのです!!(笑)

つまり、「借りる」とか「貸す」という行為は、自分からモノが離れていく時は「貸す」と言い、モノが自分の方に入ってくる時は「借りる」というので、実は客観的に見ると、「貸す」も「借りる」も同じ行為なのです。中国語は、それを同じ行為と見て、どちらも「借jiè」と表現するのです。

そして、一時的に別の人のところに渡っていたモノが元の人のところに戻ることを「还huán」と言い、これを「借jiè」の対義語として認識しているのです。

やはり、中国語では自分本位の方向性ってあまり問題にしないのでしょうかね。なんというか、上空から客観的にこの世の動きを見ている神様ような、そんな感覚なのかもしれません。

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