第42回 不思議な漢字音

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日本語の漢字音と中国語の漢字音を比べてみると、不思議なことも結構あります。今日は、日本語と中国語の漢字音を比べてみましょう。

夢(梦)

以前、-nか-ngかは日本語の漢字音(音読み)を考えればすぐ分かるということを書いたことがあります。

ちょっと復習しましょう。

  • 中国語で-ngのものは、日本語では長音で終わる。(例:东dōng →東トウ)
  • 中国語で-nのものは、日本語では「ン」で終わる。(例:汉hàn →漢カン)

そこでも紹介しましたが、「夢」という字は例外的です。

ふつう「夢」の音読みは「ム」だと思いますが、この字の中国語音は「mèng」です。-ngで終わっているので、日本語では長音で終わっていなければならないはずの字です。しかし一般には「ム」と読みますよね。

これは、方言の影響とでも言いますか。「ム」という発音は漢和辞典によると呉音なのだそうです。つまり、昔の南方系の音を転写したものなのです。日本語の漢字音は、漢音と呼ばれる音読み(唐代の長安あたりの読み方の転写)が優勢ですが、呉音も使われます。
呉音は主に仏教用語で使われますが、一般の用語にも使います。例えば:

  • 「正門」の「正」…セイ → 漢音
  • 「正面」の「正」…ショウ → 呉音

「夢」という字も漢音と呉音がありまして、「ム」は呉音なのです。「夢」の漢音は「ボウ」だそうです。でもなぜか、この字に限っては、呉音が残り、漢音は廃れてしまったのですね。不思議な現象です。漢音の「ボウ」なら長音で終わっていますので、-ng音の法則に合っていますから例外ではないのですが、「ム」しか知らなければ例外と思ってしまいますよね。

洗(洗)

この字は日本語の音読みでは「セン」ですね。しかし中国語の発音はxĭです。日本語の音読みで「ン」で終わる字は中国語では –n で終わる音のはずなのに。これも例外なのでしょうか。どちらかが混乱してしまったのでしょうか。

この字の場合も面白いことが起こっています。漢和辞典を見ると、この字の音読みは3つあることが分かります。サイ(呉音)、セイ(漢音)、セン(呉音、漢音)です。

しかし、日本では「サイ」も「セイ」もほとんど消えてしまっていますね。呉音(サイ、セン)でも漢音(セイ、セン)でも音が2つずつあるわけですから、もしかしたら意味の違いにより音を使い分けていたのかもしれません。

一方中国語の音はどうでしょうか。

ふつうは xĭ しかないのですが、xiăn という音もあるようです。しかし xiăn は現代中国語ではほとんど使われません。名前の中で使われる程度のようです。

日本語の音と中国語の音を照らし合わせてみると、このような対応があるように見えます。

  • サイ/セイ…xĭ
  • セン…xiăn

でも、なぜか、日本では「セン」が残り、中国では「xi3」が残ったのですね。まことに不思議(笑)。

憧憬(憧憬)

この単語、「どうけい」と読む人が最近は多いのではないかなと思うのですが、皆さんはどうでしょうか。しかし、この「憧」という字は、本当は「ショウ」であって「ドウ」という音読みは本来はありません。

中国語では「chōng jĭng」と読みます。日本語で「ドウ」と読む字なら、中国語ではtong(例:同)とか dong(例:动)とかであって chong という音とは対応しにくいように思います。

この「憧憬」という単語は、もともと「ショウケイ」と読みます。しかし「憧」の字の右側の「童」という字は音読みで「ドウ」と読むので、その類推から「憧」も「ドウ」と読むようになったようです。そのように間違って読む人が多くなり、いつしか辞書にも「ドウ」という読み方が書かれるようになったわけです。

なんというか、「嘘から出たまこと」状態ですね(笑)。

言葉というものはそういうものなのかもしれません。よく日本語の乱れとして槍玉に上がる「ら抜き言葉」(可能の意味をもつ「られる」という助動詞を使うべきところで「ら」を抜いて「れる」のみ接続されている現象。例:「着られる」→「着れる」、「食べられる」→「食べれる」等)も、20年くらい前は多くの人が違和感を感じていたと思うのですが、最近はすっかり市民権を得たような印象があります。

(ら抜き言葉については13年も前にちょっとした小論文を書いて雑誌「日本語論」1994年3月号(山本書房)に掲載されたことがあります。もし興味お持ちのお方があれば、探してみてください。でも普通の図書館等には置いてないかもしれませんが。)

つまり、間違っていてもそれを使う人が多くなれば、それが正しいということになってしまうのです。皆さんも、外国人の日本語を読んでいると間違いを発見することもあると思いますが、10回くらい唱えてみると、それが正しいような気がしてきます。言葉ってそんなものなのでしょう。

それをどこまで許すか、どこからは間違いとするか、その辺の線引きが難しいですね。

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